T's Web vol.13
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伝統を継ぐ 意志を繋ぐ 歴史ある技術と時代に合った発想が生んだ、紀州・和歌山の地に根ざした銘酒「紀土」

伝統を継ぐ 意志を繋ぐ

歴史ある技術と時代に合った発想が生んだ、紀州・和歌山の地に根ざした銘酒「紀土」

高い山々と清らかな川に囲まれた和歌山県海南市で、
長きに渡り酒類の製造を行っている酒蔵・平和酒造。

日本酒「紀土」やリキュール「鶴梅」を大ヒットさせ、
現在ではクラフトビールの製造にも乗り出しています。

しかし、その道のりは決して平坦なものではなかったと、
代表取締役専務の山本典正さんは言います。

良い組織作りからスタートした“こだわりの日本酒造り”に迫りました。

紀土

第3回 松尾大社 酒-1グランプリ 優勝

IWC(インターナショナルワインチャレンジ)
吟醸酒・大吟醸酒部門 
リージョナルトロフィー 2年連続受賞

酒造りの工程が明確になったことで、社員全員が“やりがい”を持てるようになりました

“紀州の風土”という意味が込められた日本酒「紀土」(キッド)。それは、平和酒造の山本典正さんを筆頭に、社員たちが一丸となって造り上げたこだわりの酒です。山本さんがベンチャー企業での勤務を経て、家業である平和酒造に入社したのは約13年前のこと。そこで山本さんは、“若い社員が次々と辞めていってしまう”という、蔵にとって致命的と言える問題に直面しました。

「僕は東京では、忙しいながらも毎日楽しく働いていたんですが、入社当時のうちの蔵には負のオーラが満ちていました」

その状況を打破すべく、山本さんはまず、全国から大学新卒者を募り、日本酒への熱意に満ちた数名を採用しました。ところが、そんな選りすぐりの若い社員ですらも、3年以内に全員辞めてしまったのです。

「“日本酒が大嫌いになった”と言って辞めていく者もいました。その時に、良い人材を集めるだけではいけないのだと気付かされ、僕が行き着いたのは、平和酒造という組織そのものを根底から変えることでした」

山本さんは社員一人一人と面談し、全員の考えをヒアリングしていきました。そうして見えてきたのは、日本酒を造る上で古くからあった“杜氏・蔵人制度”が、現代の若い人たちの感覚や考え方には合っていないということでした。そこを改善しなければ若い社員の不満は消えず、いつまでも美味しい酒が造れないと思った、と山本さんは言います。

代表取締役専務 山本典正

平和酒造株式会社
代表取締役専務 山本典正

1978年、和歌山県生まれ。京都大学経済学部を卒業後、東京都にある人材系のベンチャー企業に入社。約2年後に退社し、家業である平和酒造へ。平和酒造の在り方を変革すべく、大学新卒者を積極的に採用し、自社ブランドの酒の開発に尽力。「鶴梅」や「紀土」のほか、「平和クラフト」の製造・販売も行う。著書に『ものづくりの理想郷』(dZERO)など。

女性蔵人

「酒は人間の営みのなかで生まれたものなので、造り手の考えや感情が無意識のうちに出てしまうもの。特に日本酒は、味と香りという繊細でありながらも単純な感覚で造られているので、どうしてもそこに造る側の精神性が反映されてしまう。そうなると、酒を造っている組織側の雰囲気や文化がとても重要になってくるんですよ」

そこで山本さんは、社員全員が日本酒造りの全容を把握できるよう、手順をまとめたマニュアル作りを提案しました。また、それまでは酒造りの進捗を把握していたのは杜氏のみでしたが、全社員で共有するために情報を開示し、データ化しました。すると、若手社員の会社への定着率は格段にアップし、作業を身につけるために要する時間も大幅に短縮されたのです。

「振り返ってみると“やりがいを感じてもらうこと”が一番大切だったのだと思います。平和酒造で働く全員が、酒の造り方をきちんと理解し、その上で酒造りを行うことが“やりがい”に直結していきました。そもそも杜氏の世界でも、技術は“若手が見て覚えるもの”だったこともあり、“教える”という伝統がなかったのです」

平和酒造の雰囲気が改善されていくごとに「紀土」の品質も向上し、世界最高権威と評される世界最大級の日本酒コンテスト、インターナショナルワインチャレンジ2014、2015「SAKE部門」で「紀土 大吟醸」が2年連続でリージョナルトロフィーを獲得しました。現在は、女性の蔵人からの発案でクラフトビールの製造販売も始めた平和酒造。今後、山本さんが見据える未来とは?

「日本酒業界のなかでは、チャレンジ精神のある酒蔵であり続けたいです。それは、自分たちの成功だけを見据えたものではなく、日本酒業界全体の未来を考えた際に必要なことだと感じています。僕たちが造る“紀土”とともに、日本酒というジャンルそのものの良さを広く訴えていきたいですね」

平和酒造さんを訪れたT's POOLは、まず、自然の豊かさに驚きました。そして、これが美味しい日本酒が生まれる環境なのだなと、取材陣一同納得。蔵の内部を見学していると、社員の方々から「こんにちは」と声をかけていただいたのも印象的でした。製品とは一味違う、搾りたての「紀土 大吟醸」を飲ませていただいた時、みずみずしい味と香りが口いっぱいに広がりました。その味わいは、私たちの記憶に深く刻まれています。

杜氏や蔵人たちが、真正面から“酒造り”に向き合う場所

平和酒造の女性蔵人、髙木加奈子さんに蔵の中を案内していただいた。衛生管理や気温調整が徹底された蔵の内部は、昔ながらの設備のなかに、杜氏や蔵人たちの作業のしやすさに配慮したマシンも取り入れられていた。また、蔵の裏手には社員たちが管理する田んぼがあり、「紀土」の「あがらシリーズ」で使用する山田錦を育てているそうだ。

蔵の内部と女性蔵人

「紀土」

平和酒造株式会社
(住所)和歌山県海南市溝ノ口119番地
(電話)073-487-0189
(HP)http://www.heiwashuzou.co.jp/

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